残業代請求したい!と考えたとき、気になるのが「何が証拠になるのか」です。すでに退職してしまったかたで、手元に証拠がない!と感じられる方でも、丁寧に探していけば何らかの証拠が見つかることが少なくありません。ただ、在職中に残業代請求の裁判を見据えて証拠を確保できればそれに越したことがないのもまた事実です。どういった形で証拠を残せばよいのか、証拠を残す際に気を付けておくべき点は何なのでしょうか。証拠を残さないまま退職してしまった場合、どうやって証拠を探せばよいのでしょうか。
これについて、2024年4月8日にYoutubeでお話をした動画をご紹介します。
また、「動画を見るより、文字で読むほうが早くて楽」という方のために、全文の書き起こしを掲載します。
目次
- 1 どうやって証拠を残すか・証拠を見つけるか
- 2 証拠ってなんだ?なんで証拠が必要なんだ?
- 3 裁判ではこんなやり取りをします
- 4 残業代請求の裁判ではこんなやり取りをします
- 5 でもあきらめないで!-なんでも証拠になり得ます
- 6 在職中の証拠の残し方
- 7 在職中の証拠集めの注意点―リスクを知っておこう
- 8 タイムカードがない場合の証拠の残し方
- 9 使用者の労働時間管理把握義務
- 10 厚生労働省のガイドライン
- 11 残業代請求のスタートライン
- 12 メモを取りましょう
- 13 裁判で役に立つメモを残すために
- 14 タイムカードはあるけれど、嘘をつかれそうな場合
- 15 タイムカードが不正確である場合
- 16 退職後の証拠の探し方
- 17 退職後の証拠探し-一番の注意点
- 18 自分で集められる証拠
- 19 会社に提供を求める証拠
- 20 残業代請求は初回相談無料です
どうやって証拠を残すか・証拠を見つけるか
残業代請求したいんだけど、証拠ないんだけどという方へ。今まだ働いている人はメモを取りましょう。もうやめちゃった人も諦めないでください。今日はそういう話をします。
こんにちは、弁護士の仲松大樹です。
残業代請求したいと考えた時に、「でも手元に証拠ないんだけど」と。具体的には、「うちの会社タイムカードないんだけど」とか、「タイムカードはあるんだけど、定時どおりにしか打たせてもらえなくて、タイムカードを打つ前とか打った後の仕事がのってないんだけど」とか、そういうことがありますよね。よくそういう相談をお伺いします。
そういう時には、まだ仕事を辞めていない方には証拠の残し方をお伝えしますし、もう辞めちゃったという方には一緒に証拠を探すということをしています。そこで今回は、そういったところでお話ししていること。どうやったら証拠を残せるのか、証拠を残す時にしておくべきところはないのか、どういったところを探せば証拠が出てくるのか、そういったところを少し一般化する形でお話ししてみようと思います。
今日のお品書きです。
まず最初にちょっと具体的な話を離れて、そもそも証拠って何なのか、なんで証拠が必要になるのかっていうところをお話しします。ここを知っておくと、証拠の残し方とか探し方について理解するのがすごく楽になると思いますのでね。
具体的には、「これで完璧」という証拠はありませんという話と、「でも諦めないでください」という話をします。ただ、普段のお話の中では、相談の中ではあまり話をしていないところでありまして、大方は理屈の話になってきます。具体的に何をしよう、これをしましょうという話は多分あんまり出てきません。
裁判でのやり取りはこういうふうになりますよっていう話くらいですかね。ですので、早く具体策を知りたい方は動画概要欄に目次を置いておきますので、そこから目的のところに飛ばしてご覧ください。
具体的なところとしては、まず今、仕事を辞めてない人に向けて証拠を確保する方法というのをお話しします。で、一番最初にですけれども、証拠集めをする中で気をつけておかないと危ない、懲戒されたり、最悪刑事事件になりかねない、こういうところもありますので、そこについてお話をしておきます。
その次に、タイムカードがないという方。タイムカードじゃなくてもいいんですが、日報とか勤怠管理ソフトとか、とにかくそういったものですね。出退勤時間を管理するものがそもそも全くないよっていう場合に、どうすれば証拠を残せるのかということをお話しします。
その次に、一方でタイムカードはあって、それ自体は正確に打ってあるんだけれども、残業代が出てないと。どんなに残業しても定時どおりにしか認めてもらえない会社なんだと。裁判に行ってもそういうふう、そういうふうというのはつまり、所定の就業時間まで、それから所定の就業時間後は会社にはいるけれども働いていませんでしたとかね、そういう嘘をつかれそうだと。そういう場合にどうすれば証拠を残せるのかということをお話しします。
最後に、タイムカードはあるけれども嘘ばっかりだという、出勤打刻前に仕事をさせられている、退勤打刻後に仕事をさせられている、そういうふうで労働時間が正確に記録されていない。そういう時にどうすれば証拠を残せるのかということについてお話をします。
それから、これに対して、もう仕事やめちゃったよという方ですね。もう証拠、記録を残すっていうのは今更できないわけですから、どこかから証拠を見つけてこないといけない。それでまず自分で証拠を探せないか、つまり会社に感づかれないようにしてね、こういうところを探すと証拠を見つけることができるかもしれませんよっていうところをお話しします。
それから、会社を相手取って正面から証拠を探す、そういう方法についてもお話ししようと思います。今日はこんなところをお話ししようと思いますけれども、本題です。
証拠ってなんだ?なんで証拠が必要なんだ?
証拠ってなんだ?なんで証拠が必要なんだ?というところ、まずここをお話をしていこうと思いますが、最初にですね、「これで完璧」という証拠はありませんということをお話ししておこうかと思います。
まあ1日中ね、朝から晩まで全部GoProかなんかを頭につけて行動してるっていうならこれは別なんですが、そういった働き方はなかなか難しいだろうと思いますので、これで完璧という証拠はないということです。
なんでかというと、それはどういう場合に証拠が必要になるのかということなんです。民事訴訟、残業代請求の裁判の場合、証拠が必要になるときというのは、原則的には言い分が対立しているときだからですね。もっと言うと、会社がこちらが主張しているところを否定している、「嘘だ」っていうふうに言ってきている、その場合に必要になるものだからなんですよ。
だから、どんな証拠を出しても、その証拠も嘘だというふうに言われたり、その証拠は不十分だっていうふうに言われることがある。その会社の言い分を裁判所が「なるほど」というふうに思う可能性は、これは否定できない、そういうことなんですね。
裁判ではこんなやり取りをします
もう少し噛み砕きますね。日本の民事訴訟で取られている、基本になっている考え方、方法で弁論主義いうのがあるんですけれども、どういう裁判のやり方をするかいうことなんですけれどもね。
まず、裁判で自分にとって有利なことを主張したい側、裁判所に認めて欲しい言い分がある側、そちらの側がまずは証拠とか関係なしに、「どういったことを言いたいんですか? あなたが裁判所に認めて欲しい事実は何ですか?」いうことを裁判所に対して訴える。
例えば、私が、仮にAさんとしましょう。「Aさんに100万円貸しました、その100万円返して欲しいんです」と言って裁判所に行った時に、まず私は「Aさんに100万円貸しましたよ」ということを裁判所に訴えるわけです。
それに対して、その相手方Aさん。Aさんがその言われた事実について認めるのか認めないのかということを裁判所に言う。その結果、当事者同士で争いがないっていうことになったら、裁判所は原則として証拠は見ない。裁判所が証拠を見てしまって違う心証を持ったとしても、原則として当事者の言い分が合致している範囲で裁判をする。
さっきの例で言うと、Aさんが「確かに仲松から100万借りました」って言ったら、裁判所はAさんが僕から100万円借りたということを前提に裁判をすることになります。裁判所が証拠を見て「あれ、仲松が貸したのは100万じゃなくて200万じゃないかな?」っていうふうに思っても、僕が100万としか言っていない以上、原則として100万円の貸しとしてしか判断はしない。
逆に、証拠を見て「あれ、仲松は100万貸したって言ってるんだけど、これあげるっていう話だったんじゃないのかな?」っていうふうに思っても、Aさんが「借りました」って言っちゃった以上は、原則として貸し借りがあったという前提で裁判をする。
で、こういう場合でなくて、僕が「100万貸しました」と言って、Aさんが「いや違います、もらったものです」というふうになった場合に、初めて証拠を見る。借用書があるのか、それとも贈与契約書があるのか、とかね?そういうことをするわけです。
残業代請求の裁判ではこんなやり取りをします
で、こういった決まりの元で残業代請求もやることになるわけです。そうすると、裁判やるとどうなるかっていうと、例えば定時が8時ですよと、それで実は7時から働いていますよと。そうすると労働者の側からすると、ここで1時間の残業を主張したい、裁判所に認めてもらいたいわけです。
ですので、この場合はまず働いている側、労働者の側が「7時から働いてます」っていうふうに訴えるわけですが、これに対して会社の側も「うん、そうですね、7時から働いてました」っていうふうに言ってくれるなら、これはもう争いがないということになりますので、この場合はもう証拠が云々という話は原則的には出てこないわけです。
じゃ、証拠が云々というのがどういう場合に出てくるかっていうと、こっちは7時から働いたって言ってる、でも会社は「いやそうじゃない、定時どおりだと、8時から働いてます」っていうふうに言ってる、「どっちなんだい!?」っていう場面になった時に、そこで初めて裁判所が証拠を見るわけです。
つまり、労働者と会社の主張、言い分が食い違ってるわけで、どっちの言い分を信用したらいいのかっていうところで、「いや私7時から働いてましたよ、タイムカードがあるから見てください」って言って労働者から証拠を出すわけです。これを裁判所が見て、「ああ、タイムカードには確かに7時って書いてありますね」と、こういう資料があるんだったら7時から働いていたっていうあなたの主張を信じてもいいですねっていうふうに考える。
これが証拠なんです。つまり、こういう資料があるならこっちの言い分を信用してもいいなと思ってもらうために出す資料が証拠。正確な学問的な定義っていうのはもうちょっと複雑なんで、ここではかなりざっくりした話にしちゃってるんですけれども、立証っていうのはそういう意味で、民事訴訟、残業代請求の裁判では、労働者と会社が裁判所にどうやって自分の言い分を納得してもらうのか、裁判所をどうやって説得するのかということをお互いにやるっていうことになるわけです。証拠っていうのはそのための資料なわけですね。
で、それを双方が出すわけです。双方が出すっていうのは、つまりさっき7時から働いていたことを裁判所に納得してもらう、裁判所を説得するために7時っていう打刻があるタイムカードを出すという例をお話ししたでしょ。
これに対して会社からは、「いや、定時からだ、8時からだ」っていう主張とその証拠が出てくるわけです。例えば、「いや確かにタイムカードは7時って打ってありますけど、うちは仕事は定時から始めるっていうことになってますから、それまでは自由時間ですよ。この人は通勤ラッシュを避けて早く来てただけで、8時までは遊んでましたよ」みたいな主張が出てくるわけです。
で、証拠としては例えばですね、「ほら見てくださいよと、7時20分にこの人職場のパソコンでニュースサイト見てましたよ」って言って、会社のパソコンの管理ログが出てきたりするわけですね。
そうすると裁判所は「あ、こっちからはこういう証拠があるんですか。だったら7時から働いてたってのは信用できないかもしれないですね」っていうふうに思うわけですよね。そうすると今度はこれに対してどうやって反論するのか考えないといけない。
例えば、「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」と。「私の仕事マーケティング担当じゃないですか。この日の仕事は世間で起きたニュースの概要をまとめてレポートにして会議で報告するっていう、そういう仕事だったじゃないですか。ニュースサイト見なきゃ仕事にならないのに遊んでたっていうのおかしいですよ」っていう、こういう反論が例えばあるかもしれないですよね。
これは、仕事の実態を踏まえてということになりますけれども、長くなりましたが、つまり、これが今のようなやり取りが私たちが裁判所でやっていることなんですが、タイムカード、残業代請求の時にタイムカードって言ったら、これは言ったらテッパンの証拠なんですけれども、それでも場合によりけりで、これさえあれば絶対大丈夫って言いきれる完璧な証拠なのかというと、そうは言いきれないということですね。
まあ、そうは言ってもタイムカードなんていうものが出てくれば大体テッパンなんですけれどもね。ただ、それが100%絶対完璧ですいうふうにまでは言いきれない。そういう意味で、「これで完璧です」という証拠はなかなかないいうことなんです。
これで完璧という証拠はないので、できるだけいろんな側面から証拠があるに越したことはない。証拠を残す、証拠を作る、証拠を探す時にはそういう視点を持っておく必要があります。裁判所を説得するために、裁判所を納得してもらうためにどういう資料があるのかということを一生懸命考えることになります。
で、ちょっと途中で宣伝なんですけれども、こういったことについては、たくさん事件をやっているという経験の中で、これが役に立った、これは裁判所に受けた、これは証拠として強いんじゃないかと思って裁判所に出したんだけど、あんまり裁判所は見てくれなかったという経験を重ねる中でノウハウとして身についてくるという側面があります。
ですので、この辺りはですね、まさにそのノウハウを積み重ねているところの弁護士のところに頼ってきていただければというふうに思います。ということで、まずはよろしくお願いをいたします。
でもあきらめないで!-なんでも証拠になり得ます
また気を取り直して続けますが、ただですね、ただ完璧な証拠はないいうことを念頭において、それでも諦めないでくださいというお話もしたいと思います。というのは、つまり裁判所を説得するのが証拠です。納得してもらうためのものが証拠ですという話をしましたが、それは裁判所を説得できるもの、裁判所に納得してもらえるものなら何でも証拠になりますよということでもあります。
つまり、小さなもの、すごくほんの一部しか説得に役立たないように思えるようなもの、こんなもんで大丈夫かなと思っちゃうようなものでも、裁判所がそれを見て、それを見ればこっちの言うことを信じてくれる。全部について説明するような資料では確かにないけれども、こういう資料があるんだったらこういうことも認められますよね。そうするとこの事実も認められるはずだし、だったらこの事実も認められるはずだと。そうだとするとこの人の言うことは全体として信用できるよね、そういうふうに働く可能性があります。そういうものであれば、それは証拠になり得るわけです。
これはですね、残業代請求をしたい側、特にご本人というのは、なんというか、働いているその状況の全部1から10まで知ってるわけですよね。そうすると1から10までの中で2から9までしか説明しないような資料はなんか不安だと。なんだったら3の部分しか説明しないような資料はかなり不安だと、こんなもん出しても意味ないんじゃないか、そういうふうに感じることがあります。
ただ、これは、でもですね、ということなんですが、裁判で争いになるのは、言ってしまえば「そんなもん」なんですよね。1から10まで、何から何まで証拠が揃っているっていうことの方が、どうだろう、少ないんじゃないかな。そう言って言い過ぎではないと思うんですけれども。それで、裁判所はそういった状況の中で、断片的な証拠を組み合わせて、実際はどうなんだろう、この人の言うことを信用していいんだろうか。そういうことを日々積み重ねているわけです。部分に過ぎないけれども、この資料があるなら全体を信用していい。そういう場合に当たるのか当たらないのか、事実認定の手法っていうふうに言うんですかね、そういうことについて研鑽を重ねていますので。
ですから、自分としてはね、こんなもんで大丈夫かなと思っちゃうようなものでも、きちんと努力をして裁判所を頑張って説得をする。そうすると結果につながるということは、これは十分にあるわけです。なので、諦めないでくださいということですね。
私の経験でも、相談を受けた時点では、証拠が本当にないなと、どうしよう、これ、相談受けた僕の方が思っちゃうような事案で、でも色々立証を工夫して、最終的に残業が認められたという例はそれいくつもあります。まあなかなかね、そんな状況ですので、なかなか100%全部認めてもらうというわけにはいかない、幾分か労働時間は割り引かれちゃうっていうことにはなりますけれども、ゼロではない、そういう事例は何例も経験があります。
つまり、抽象的な言い方になるんですが、働くっていうのは世界、つまり自分の外部と関係を持つということですからね。そうすると自分が働いたということについて、世界のあちこちに何がしかの痕跡が残っているはずなんです。それをなんとか拾い上げることができればチャンスはある。だから諦めずに頑張りましょうということで、よろしくお願いをいたします。
在職中の証拠の残し方
ということで、いよいよ具体的に、いまだ仕事を辞めてない場合にどうやったら証拠を残せるのかっていうところに入っていこうと思いますが、まずはここを申し上げておきたいと思うところがね。証拠集めは気をつけてください。いきなりですけどね。
在職中の証拠集めの注意点―リスクを知っておこう
具体的な証拠集めの話をする前に、この部分はどうしてもわきまえておいていただかないと、ちょっと気をつけてもらわないと危ないですよという話がありますので、まずはそこをお話をしておこうと思います。
というのはですね、今日この後、今日お話しすることを前提にすると、職場にあるあれもこれも、もう言ったら何もかもが証拠に見えてくると思うんです。そうすると、「あれも証拠になるな」と、「これも証拠になるな」と。「あ、危ない危ない、これ明日になるとシュレッダー行きだな」と、「やったやった、気づいた俺偉い、持って帰ろう」というふうな気持ちになることがありますが、ここで気をつけないといけないわけです。
というのはですね、まず1つ目に大抵の場合、そういった証拠物は誰のものかっていうと、会社のものなんですよね。もう廃棄する資料であっても、例えばタコグラフのチャート紙、営業日報、業務日報、それからタイムカードもそうですよね。これは、何時から何時まで働いた、実際の作業が何時から何時までだった、そういったことが記録されているんで、ま、証拠の中でもテッパンというふうに言っていいものの1つになります。
で、これが捨てられようとしている時に、「ああテッパンの証拠がなくなっちゃう」と思って持ってきたくなるんですが、その時に会社に黙ってこれの現物を持ってきちゃうと、これは場合によっては会社の所有物を欲しいままにしたということで、最悪窃盗罪になる可能性があるわけです。
あるいは、そこまでは、警察を入れるようなことは会社が嫌がったのでならないというような場合であっても、社内での扱いというものはありますわね。つまり会社のものを私物化したとかね、そういうふうに言われて解雇だと、そういうふうになることはあるわけです。そこは常にリスクとして気にしていないといけない。
以前、別の動画でも似たような話をしたことがあるんですが、残業代請求をしようとする、つまり会社と対立をするという関係に立つわけです。ある一面において会社と敵同士になるわけですね。相手の不利益はこっちの利益だと、そういう関係になるということを認識しておかないといけない。
その中で、「このくらいならいいだろう、会社は許してくれるだろう」と、そういう甘いことを考えてはいけないわけです。ここは厳しく言って言いすぎということがない部分だと思いますので、本当にお願いをします。
こういうことをお話しするとね、「じゃあ現物は持ってくるのやめときます、コピー取ってきます」という方がいらっしゃいますが、これがいいのかというと、社外に持ち出すことが許されているものを社外に持ち出してコンビニでコピー取った、これはまあまあ問題にならないでしょうね。
あるいは、会社内で自由に使っていいことになっているコピー機があって、それを使った、これも会社の所有物という観点では問題にならないでしょう。でもそうでない場合ですね、業務用のコピー機を使ったという場合に、そのコピー機を動かすのにかかった電気代、コピーに用したトナー、コピーするのに使った紙、これは会社のものですからね。そうすると会社のものを取った、私物化した、そういうふうに言われるリスクっていうのはあるわけですから、気をつけないと危ない。
だから、まずは会社のものを持ち出すとかコピーをするより、今は便利な時代で、スマホがありますからね、スマホのカメラでパシャッとやってくる、タイムカードですとかね、そういった方が安全であるいうことにはなります。
ただ、これも場合によりけりでしてね、スマホで撮るのはじゃあ100%安全かと言うと、これはちょっと断言できない。というのは、会社っていうのは大抵の場合、営業秘密、事業のための情報、顧客情報みたいなもののプライバシー情報、そういったものの塊であるわけですよ。
で、そんな環境の中でスマホでパシャッとやった、この時間仕事してたんだぞと言って、例えば7時10分に客先に送ったメールの写真を、コンピューターの画面の写真をパシャッと撮った。でもこれ、そこに写っているのはまさに会社の業務上の情報で、顧客の連絡先アドレスとかそういったプライバシー情報が含まれちゃってるわけですよね。そうするとこれは、写真を撮ることが営業秘密保持との関係で問題になってくる可能性がある。
少なくともそういう問題があるといって、これまた懲戒だとか解雇だとか、そういう話になってくる可能性はあるわけです。あるいは、開発とかの部署でね、個人のスマホはそもそも持ち込み禁止だと。あるいはスマホ持ち込み禁止とまでは言わないんだけど、カメラは使用禁止だと。なのに何やってんだという話になってくる可能性はある。
あるいは、そういった明示の禁止はないんだけど、少なくとも一般論として仕事中は仕事に専念しろよと、いわゆる職務専念義務というものがありますので、何仕事離れて勝手なこと、スマホ構えて仕事に関係ない写真撮ってるんだというふうに言われる可能性はあるわけです。
この時に、例えば職務専念義務との関係で言うと、トイレ行ってたって、タバコ休憩行ってたって、ある程度時間はかかるんで、カメラ構えて取ったくらい仕事に影響してないよっていうふうに言いたいんだけど、なんですが、さっき言ったように会社と対立している状況で普段はこのくらい許されるからという期待はすべきではない。ここは慎重にならないといけないんです。
で、この後の説明の中で僕が1番にお勧めするというのは、仕事の内容についてメモをきっちり取るということで、これは私なりにね、そういったリスクがある中で、メモを取るというのは基本的に自分の所有物の範囲で完結するし、それから仕事内容についてメモを取るっていうのは仕事の仕方の見直しにつながる側面もある。残業代請求するつもりでメモを取ってたら、なんか業務が効率化して残業しなくて済むようになりました。そういう可能性だってある。
そういう意味で、仕事につながる面がある、業務に役立つ側面があるというふうに言えるから、証拠を残す方法の中ではリスクが少ないというふうに思ってお勧めしているんですけれども、だけどこれも程度によりけりでね、メモを取ってる時間が積み上げると日に1時間だ2時間だみたいな話になってくると、そのメモ取ってるのが職務専念義務違反だということを言われかねないので、そういったリスクの中で証拠集めすることになるんだっていうことはとりあえず分かっておいていただきたいんですね。
なので、証拠集めは気をつけてくださいということをまずはお話ししておいたということです。で、この辺はですね、とにかく会社ごとの事情や働き方に即した注意事項というものもありますので、ご自身の場合ですね、自分の場合どうなんだろうということが分かんなくなったら、問題になる前に弁護士に相談してくださいということで、ここもよろしくお願いをいたします。
リスクの話をしてると、なんかちょっと気分が暗くなっちゃいますよね。え、ちょっと気を取り直して、テンションを上げていこうと思います。
タイムカードがない場合の証拠の残し方
じゃ、いよいよ具体的なところに入っていきますけれども、タイムカードがないという場合です。タイムカードじゃなくてもいいんですけれども、日報とか、勤怠管理ソフトとか、とにかくそういったものです。出退勤時間を管理するものがそもそも全くないよっていう場合ですね。
これ、あるんですよね。それで、裁判に出ると、会社の方が「うちは労働時間の記録取ってませんから」って堂々と開き直るわけですよね。それで「いや、労働時間が分かんないんだから、残業代なんか認められるわけないじゃないですか」っていうふうに言われたりしてね。「おいおい、その主張で来るのかよ」みたいなふうに思ったりするんですが。
使用者の労働時間管理把握義務
あの、これはですね、そういう労働時間の記録を取ってないというのがそもそも問題じゃないのかって思いますよね。思いますよね。もしこれを、会社側で見ている方がいたら、思ってくださいというところなんですが、問題なんですよ。
というのはですね、法律上会社、使用者には労働時間管理把握義務というのがあるからなんです。労働時間適正把握義務とか、労働時間把握義務とか、人によって少し言い方が変わることがありますけど、この労働時間管理把握義務というのは何かというと、ま、読んでそのままなんですが、労働時間をちゃんと管理して把握しなさいという、そういう使用者の義務である。つまりですね、労働基準法に、会社、使用者は労働者に週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないっていうふうに書いてあるわけですね。
ちょっとフリップ出しますね。
はい、労働基準法の32条。「使用者は労働者に休憩時間を除き、1週間について40時間を超えて労働させてはならない。」二項で、「使用者は1週間の各日については、労働者に休憩時間を除き、1日について8時間を超えて労働させてはならない。」こういった規定があるわけです。
まあ、これ以外にも35条とかね、会社が人を雇って働かせるにあたって、労働基準法上守らなければならない労働時間に関するルールがあるわけです。で、労働基準法が定めるルール、義務というのは、最低限の基準として労働契約の内容になるわけですね。
労働基準法の13条。「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、この法律で定める基準による。」というのがありますが、そうすると会社は雇っている人に対しては、この1日8時間、週40時間を超えては働かせていませんよと言えないといけない。
36協定がない場合ですね。その場合には何か仕事を命じた時に、その命令に従ってくださいと命令するために、「いや、まだ1日8時間、週40時間超えてませんからね」というふうに言う必要がある。あの、とりあえず今、所定労働時間がこの労基法の最低限の数字だった場合を念頭において説明してますが、とにかくこの場合、「まだ1日8時間、週40時間超えてませんからね」ということが言えて初めて、ようやく労働者に対して、「あなた今時間内だから命令に従ってくださいよ」と、そういうことが言えることになります。この時間を超えてると今度は働いている側、労働者の側が、「いやいや、もうあなたが働けって言える時間数超えてますから」と、そういうふうに言って、断って家に帰ることができることになる。
なかなか言えないですよ、実際はですね、なかなか言えないんですが、法律的にはこういう関係があるということです。で、そうすると今みたいな関係がありますので、1日8時間、週40時間超えてないのかのチェックができないといちいち困ることになりますから、なので使用者としては労働時間を正確に管理して把握していなければならない、そういうことになっているわけです。
で、もう1つ追加で話をすると、賃金、給料ですね。これについて所定の賃金、それから残業代の支払い義務というのがあるわけです。ま、支払ってくれないから問題になってるわけですが、そういう義務があるわけです。で、労働時間管理してないと残業代出せないじゃないですか、ということですよね。それはおかしいでしょと。会社は人を働かせたら、賃金、給料、これを残業代まで含めてきちんと全額支払う必要があるわけです。ですので、その義務責任を果たす大前提として、ちゃんと労働時間を把握して、残業があったら残業代、深夜労働があったら深夜割増、休日労働があったら休日割増、これを払いなさいということになっているわけです。
え、あの一応言っておきますが、この労働時間管理把握義務の根拠についての説明というのはいくつか見解があるんですけれども、その中で私が今説得力があるなと思って、私が採用している考え方をお話ししていますけれどもね。
厚生労働省のガイドライン
で、まあまあまあまあ、そういったことがありますので、これに関しては厚生労働省からもガイドラインが出ています。平成29年に出たものなんですけれどもね。え、こんなものです。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべきガイドライン」というやつで、元々のガイドラインは結構長くて丁寧に書いてあるんで、興味のある方は動画概要欄にリンク貼っておきますんで見ていただければと思いますが、あの、今回必要なところをね、ちょっと私の方で意訳というか、噛み砕いて説明をしてみます。え、ポイントはここなんですよ。要するにですね、まず使用者は日ごと人ごとに始業時間と終業時間を確認して記録しなさい。それから、その方法としては、使用者自身が現場で確認して記録するか、タイムカードなどの客観的な記録によるかしなさい。それから、どうしても労働者の自己申告にせざるを得ない場合は、正しい労働時間が申告される、あるいはできる環境を整えた上で時々、しかも見直しをしなさい。要約するとこんなところかなというふうに思いますけれども。
え、まあまあまあまあ、あの、とにかくこういうことが言われているわけですよ。ですので、裁判とかで「うちは労働時間の記録取ってませんから」って堂々と開き直られちゃうと、「いや、それ自体まずいんですけどね」っていう問題にはなる。
残業代請求のスタートライン
で、ただ問題は、残業代請求をしたい側からすると、問題はここからでして、会社が記録取ってなかった、それは会社としてはまずいんだけど、じゃあそれだけで、じゃあ働いてる側が残業代請求勝てるかというと、勝てないんですよね。「おかしいじゃないか」と、「なんで会社がやるべきことやってなくってこっちが損するんだ」というふうに思うでしょ。で、僕もそう思うんですよ。僕もそう思うんですが、ただ残業代請求っていうのは、もう本当にざっくり言ってしまえば、裁判所に対して、「私はこれだけ働きました。だからこれだけ賃金がもらえるはずです。」これを納得してもらって、それで「おいおい、実際払われてる金額に足りないじゃないか、金額足りないじゃないか」と、そういうふうに言ってもらって差額を払えって会社の方に命令してもらう、そういうものですからね。
そうするとまず最初の、「私はこれだけ働いた」、これが言えないと、どうにもこうにも裁判が始まらない。残業代請求のスタートラインに立たないわけです。なので、そうするとタイムカードがない、資料がない中で何時から何時まで働いたか、どうにかして裁判所に主張しないといけないわけですが、それに対して会社が、こっちが「7時から働いてました」と言っても、「いや定時からです」とかね、ひょっとしたら「いやいや、そもそも遅刻してましたよ」とか言ってくる可能性もあるわけです。うちは労働時間の記録取ってませんからって堂々と開き直るような会社だったら、本当に嘘八百並べて、なんか言うことが十分ありえますからね。
そうするとこちら側で「7時から働いてました」と言いたい時には、それを裁判所に説明する、納得してもらうための資料、証拠を出さないといけないわけです。
ということで、お待たせしました。ようやく今日の本題に入りました。皆さんまだ見てくれてますか?なんか僕の動画、割と視聴者維持率が低いのでだんだん不安になってくるんですが、本題です。
メモを取りましょう
まだ仕事辞めてないよ、で、職場にタイムカードがないよという場合の争い方です。私のお勧めは、とりあえずノート、メモを取ることです。何月何日何曜日、出勤時間は何時、退勤時間は何時、まずはそこから。これは手書きでも、パソコン上のメモ、スマホのメモアプリ、どういったものでもいいです。
最近はスマホで残業時間を記録できるアプリなんていうものもあるようですので、そういったものの利用を考えてもいいですね。あるいはLINEで自分だけ参加のトークルームを作ってね、そこに次々と投稿していく。朝何時出勤、夕方何時退勤、そんな感じでね。そういうものもあり得るかもしれない。ただ、パソコンとかスマホを使う時は特に情報の流出っていうことのリスクにはよく気をつけておいて欲しいというふうには思いますけれども、とりあえずメモをつける。
で、メモをつける上でのポイントですが、メモは毎日、出勤した時、退勤した時にその都度つける。その時間は正確に書く。分単位まで。丸めたり、後でまとめて書くっていうのはできるだけ避けるということで。
え、できればというか、これは私のところに相談に見えた方にはこういった記録をつけてください、せめて継続1ヶ月はこういった記録をつけてくださいってお願いしているところなんですが、何時に出勤して、それでどんな仕事をしたか、特に定時前ですね。8時始業で7時に出勤したような場合には、7時から8時まで何の仕事をしたのか。休憩が取れてないっていう主張をしたい時には、12時から13時まで休憩時間ということになっているのであれば、12時から13時まで何か仕事をした、何をしたのか。電話番、待機をしていて、電話が実際にかかってきたのか、何時にどれだけかかってきたのか。1週間2週間という単位で見た時に、12時から13時の間に電話がかかってくる頻度っていうのは実際どれぐらいなんだろうか。17時が定時で20時まで残業しました。その場合には、じゃ17時から具体的にどんな仕事をしたのか。17時から18時30分までは上司Aさんの仕事をして、18時30分からはお客さんBさんの仕事をしたということであれば、その内容、その時に上司は誰が残ってたのか、残ってなかったのか、その仕事は誰から指示をされたのか、その指示の時の具体的なやり取りは何だったのか。何だったらその時に自分が感じた気持ちは何なのか。事務所外に出ることが多い仕事の場合であれば、事務所外で何をしてたのか、どこからどこに移動して、その交通手段は何だったのか。どれだけ時間がかかったのか。時間調整で喫茶店に入ってコーヒーを飲んだりした、ということはひょっとすると書きたくないけれども、それも書く。ごまかさずに書く。自分に不利だと思ったことも書く。とにかく何から何まで正確に記録する。えー、こういったことをお願いしてます。
まあ、ここら辺を全て記録するって言うと大変ですので、バランスを考えて、適宜割愛するところ、記録を残すところっていうのを考えていく必要がありますし、それを1年2年続けるのはなかなか大変なので、せめて1ヶ月とかね。うん、そういうことを考えていく必要はありますが、まあとにかくそういうものです。
え、まあそうですね、例えて言うなら、ハンドメイド、自分メイドの日報を作る、あるいは時間がやたらと細かく書いてある日記をつける、そういうイメージになりますね。
で、なんでそんな面倒なことしなきゃいけないのと。何時から何時ということだけ書いとけばいいんじゃないのと。まあ、それでも全く記録がないのに比べるとはるかに資料としてはありがたいということになるんですが、なんで僕はそこまで細かいことをお勧めしてるのかっていうところをちょっとお話ししてみますね。
裁判で役に立つメモを残すために
え、さっき「これで完璧という証拠はない」ということをお話ししましたよね。タイムカード、会社が記録するタイムカードでさえ、会社から「その時間は労働時間ではありません」というツッコミが入る可能性があるというお話をしました。こういう視点で、例えば「7時から働いた」というメモを残してある、こういう時に、「7時から働いた」ということを否定したい会社がどういうことを言ってくるだろうかということを想像してみたい。
例えばね、会社からすると「正確な時間は記録されてない、これノートつけてあるように見えるけれども、残業代請求のために裁判の前に急遽でっち上げた時間だ」、そういうふうに言ってくる可能性がありますよね。もっと具体的に言うと、「本当は8時直前に会社に来てるのに、7時っていう嘘の時間を後からずらっと書いたんだ」と。
で、証拠っていうのは裁判所に説明するため、裁判所に納得してもらうための資料だっていうことを先ほどお話ししました。なので、今度はそういった視点から、こういったことを言われた裁判所の側の視点、裁判所はこの証拠、私たちが作ったメモに対してどういう感想を持つだろうかっていうところを考えてみたいんです。
例えばね、こういった証拠を見てみましょう。よいしょ、メモです。
え、4月1日、月曜日、7時から20時。4月2日、火曜日、7時から20時。4月3日、水曜日、4月4日、木曜日、あとずらっとね、7時から20時、こういうふうになっているメモを見て、皆さんがメモを残した側ではなくて、人のメモを見ている側と思ってみてください。率直にどう思いますかね。
大抵の場合、人間の行動ってどんなに生活ルーチンが固定化してきたって言ったって、数分単位くらいの揺らぎはあるもんですよね。そうするとね、仕事に入ったまさにその時間、仕事終わったまさにその時間が何日も何日も何日も何日も全部全く一緒になる、それはやっぱり不自然である、そういうふうに思われる、そういうふうに見られる、そういうところはありますよね。
で、こういったメモ、こういったふうになってるっていうのは、大抵多分丸めが入ってるんでしょうね。毎日メモ取るっていうと、1分2分のブレを書くのって正直面倒くさいじゃないですか。だから、いつも6時55分、6時57分、6時59分に会社に入るんだけど、もういいやと。嘘を、過剰に書くんだったらまずいけど、短くするのは問題ねえだろうと。全部丸めて7時でいいや、そういう気持ちで丸めて、その結果時間が毎日毎日一緒になってしまう。
そういう事情でこういうふうになるというのは、これはそういう事情は分かるんです。労働側で仕事をしている立場としてはね。ただ、裁判所が同じように、「丸めが入ってるよね」というふうに考えてくれればいいんだけど、「大体7時から20時っていうことで、後でまとめて365日分書いたんじゃないですか」って考えられる可能性もあるわけです。そうすると、これはちょっと嫌な感じがしてきますよね。そんなふうに後でまとめ書きしたのであれば、ちょっとこのメモ信用できませんよねみたいなふうに考えられちゃうと、このメモで裁判所を説得するというのが難しくなってくるわけですよね。
これを避けたいんですよ。これを避けたいんです。なので、毎日、出勤した時、退勤した時、その都度つける。時間は正確に書く。丸めたり後でまとめたりっていうことはできる限り避ける。仕事に入った瞬間にノートを開くっていうのが難しければ、例えば付箋にパッと書いたものをなるべく早く転記する。何日もまとめてではなくてその日のうちに転記する。そういったことをやる。ここを注意していただきたいですよね。
で、毎日、出勤した時、退勤した時、その都度、正確な時間を分単位でつけるっていうことをしていると、時間が自然にぶれることになります。それから、これは手書きでメモをつけている場合ですけれども、その時に使ったペンが違ったり、あるいは同じペンでもインクの調子でかすれが違ったり、書いてる側の体調や気分で筆跡が違ったり、筆圧が違ったり、そういうなんというか、自然なブレ、表記揺れ、ゆらぎみたいなものが生じる。
それはですね、裁判直前にまとめてでっち上げようとして作ったとしたら、なかなか作れないものなんですよ。そうすると、裁判所はそういったところは見てますからね。会社の方は色々でっち上げたとか言うけれども、こんなふうに日ごと時間ごとのブレがある、表記揺れがある、筆跡のゆらぎがあるなら、その時々につけていたちゃんとした記録なんだろうな、そういうふうに思ってくれる可能性があるわけです。そういった意味で、せっかく毎日メモを取るわけですからね、裁判所への説得力を上げるということを考えたいところです。
で、今手書きの場合っていうことを話しましたけれども、こういったことについて、後でまとめて書いたんだろう、請求にあたって作り物の時間、でっち上げたんだろうっていうことに対しては、機械的に後の改ざんが難しい方法、つまり先ほど挙げたスマホのアプリだとどうどうなのか、ちょっと僕はそのアプリを使ったことがないので、まあそれが機械的に担保される方法があれば、そういったものがいよいよ適当だということになりますし、LINEでポコポコその都度短い文章で「何時出勤」「何時退勤」送信して記録を残しておくとかね、そういった形で機械的に改ざんが難しい形で記録を残しておくということが有効になることもあるでしょうね。そういったことも考えてもらうといいと思います。
それから、仕事の内容を細かく書いてくださいっていうことをお話しましたけど、これも同じ意味なんですよ。というのはですね、ある日は6時55分から働いたと書いてある。その次は6時57分、その次は6時54分、その次は、っていうブレがあるっていうのは、さっきこれはなかなか後ででっち上げるのは大変って言いましたけれども、それだけならね、残業代請求の時効、請求権の時効今3年分ですので、3年分でっち上げる、これはかなり大変だけれども、数字を並べるだけだったら、やってできないことではないかもしれない。けれども、それに加えて「この日は6時57分に出た、その後この日はこの仕事をまずした、それに何分かかった、次にこの仕事をした、それに何分かかった。この時に誰それさんにメールを打った、この時は誰それさんの対応した」そういうことをいちいちいちいち書いていくっていうのは、これでっち上げるっていうのはほとんど無理ですよ、実際のところ。さらにその時の気持ちまで一言コメントつけてあったりすればなおさらですけどね。
そうすると、そういったとこまでメモに書いてあれば、それを見た裁判所としてはですね、「これがでっち上げだ」というふうにはなかなか思わないんじゃないか、納得してくれるんじゃないか、そういうふうに思うわけです。え、休憩をしていたという主張がされた時に、「いや、そうじゃなくて、実際にはこういう作業がありました、電話対応して、する必要があったので、これは休憩時間ではありません」という主張に対して、会社側が「いや、電話なんかしょっちゅうかかってくるものではありません」と言ったとして、「見てくださいよ、1週間に10何回かかってきてます、その時間のばらつきはこういうふうです」そこまで言える。そこまで言えるとなかなかこれは会社側、使用者側の主張というのはとおりにくくなってくるわけですよね。
ですので、とにかく仕事の内容を細かく書いていく。ハンドメイド、自分メイドの日報、時間まで詳しく書いた日記、そういったものを残すということを考えていただければというふうに思います。それがあった上で、裁判ではそこに加えて、じゃその間の電話の通話記録ね、「ここに書いた時間で確かに電話してるか、じゃあ会社の方で通話記録出してください」とか、あるいは「この時間に上司に報告を出しましたと、それは社内SNSで報告を出してますと、じゃあ会社の方でちょっと社内SNSの記録出してくださいよ」とか、「この時間にお客さんにメール出しましたと、じゃあちょっと会社の方でメールの送信記録出してくださいよ」とか、あるいは事務所の入退館記録だとかね、警備システムの記録、そういったものがさらに裏付けとしてないか、そういったものを探しに行くということになります。
え、こういったものがあると非常に説得力が高くなる。いうことで非常に大変ですけれども、頑張ってくださいということで、よろしくお願いをいたします。
タイムカードはあるけれど、嘘をつかれそうな場合
で、実は同じような話になっちゃうんですが、タイムカードはあるけれども嘘つかれそうだと。つまり、タイムカードはあって正確に打刻されているんだけれども、定時で計算されて残業代が出てない。裁判に行っても、所定の始業時間まで、それから所定の就業時間後は働いていませんでしたというふうに嘘を言われそうだと。こういう場合も結局同じなんです。
え、出勤打刻してから所定の始業時間までどんな仕事をしていたのか。所定の退勤時間から、実際の退勤時間まで何をしていたのか、そういったことを丁寧に残しておくということが有効になります。ただ、さっきもお話ししましたように、会社、使用者には労働時間管理把握義務というものがありますからね。それを果たすためにタイムカードを作ってたんでしょう。なんでそれ、後になって今更否定できるんですか、そういうことが言えることになります。
ですので、この類型の場合は実はそんな悩む必要はないんですね。あの、つまり会社自身がね、タイムカードで時間管理してたわけですからね。そうすると、タイムカードに打ってある時間が労働時間だろうと、そういうふうに見てもらえる可能性が基本的に高いことになります。ですので、この場合、「タイムカードはきちんと打ってあるんだけど嘘つかれるんじゃないか」っていうのは、実は悩みはそんなに深くないんです。
タイムカードが不正確である場合
で、悩みが深いのが、タイムカードはあるんだけど嘘ばっかりだっていうこのパターンですね。つまり、タイムカードはあるんだけれども、出勤打刻前に仕事をさせられてる、退勤打刻後に仕事をさせられてる、7時に出勤して20時まで仕事してるんだけど、タイムカード上は8時17時で打刻が揃っている、こういう場合ですよね。
この場合は、なまじっかタイムカードがあるというのが実は厄介なわけですよ。つまり、裁判所からどういうふうに見えるかっていうことですけれども、こっちからは「7時から20時だ」という主張する証拠としてメモを出すんですが、使用者、会社の側から8時から17時のタイムカードが出てくるわけです。
で、タイムカードって基本的に後からの書き換えというものが難しいものですよね。で、打刻されている、表示されている時間が打刻した時間だということが機械的に担保されてるわけです。で、しかも大抵の場合タイムカードって自分で打つ、自分でガシャンとやるものじゃないですか。そういう点で裁判所から見ると、自分でその時間に、つまり8時17時でタイムカードガシャンとやったんだし、その時間を労働時間というふうに見るべきじゃないですかというふうに、そういうふうに見られやすいんじゃないか、そういう懸念があるわけです。
先ほどね、タイムカードが一切ない場合、この場合は使用者の側に、ぺけ、マイナス。労働時間管理把握義務を全然果たしていなかったということが明らかなわけです。そうすると、こちらの証拠が多少不十分でも、裁判所は「結局労働時間が分からないのはあなた」、あなたというのは会社のことですね。「会社の責任もあるじゃないですか、それなのに労働者が頑張って作った記録に文句言うのおかしいんじゃないですか」っていうことが、これ会社に対して裁判所は言いやすいわけです。言いやすいところがあるわけですが、これがタイムカードが一応でもあるとね、そういうことが単純に言えなくなってくる。何しろタイムカードがあるんで、裁判所からは使用者、会社が労働時間管理把握義務を果たしていたように見えちゃうわけです。
で、こういう場合、裁判ではこちらとしてはですね、「こういう事情があってタイムカードを正確な時間に打つことができなかったんだ。」、「そもそもタイムカード打ってたの上司なんですけど」と、そういうことを主張していく。「だから、結局のところ使用者、会社は労働時間管理把握義務を尽くしていたとは言えないですよ。」。そういうふうに主張する。より積極的に労働時間を認めてもらうために、7時から8時までの間、あるいは17時から20時までの間にした仕事の成果物、さっきも話しましたが、その間の電話の通話記録とか、職場のSNSとか、メールの送信記録とか、事務所の入退館記録とか、そういうものを探しに行くということになりますが、どうしても見つからないという場合があり得るわけですね。SNSとかの資料隠されちゃって、電話は客先の都合で朝の1時間と夕方の1時間はあるけど18時から20時までの2時間は記録がないとかね、そういうふうになってなかなか十分に労働時間を認定してもらえない、そういうことはあり得るわけです。
だから、まあ、だから、だからこの場合は、というかこの場合が一番ですね。この場合は、メモの詳しさ、メモの詳細さというところが勝敗を分ける要因になってくる可能性が高くなってきます。きちんと労働時間を認めてもらうために、何時に出勤してタイムカードを打つまでにどんな仕事をしていたのか。何時に誰からどういう指示があったのか。文章を作ったんだったら、いつの何のための仕事のためにどういう文章を作ったのか、それにどれだけの時間がかかったのか。社内SNSに何かメッセージを流したんだったら、いつ流したのか。上司はいつ出勤してきたのか。それからその時に感じた気持ち、そういったことをきっちり残しておく、そういったことが必要になってきます。
で、そうしますとね、さっき言ったことの繰り返しになりますけど、裁判所としてはこれがでっち上げだというふうにはなかなか思わないわけですよ、多分。そういうふうにこちらとしては期待したいわけです。それでそこに書いてある電話の全部、社内SNSの記録の全部が、何しろ3年分、時効3年分ですからね、見つからなかったとしても近いところで数ヶ月分とかいったところで、こちらがつけていた記録と合致する仕事の成果物が会社に残っていることが分かったとする。そうすると他の部分も含めて、「やっぱりこの人の言っているどおり働いていたんじゃないですか」っていうふうに納得してくれる、それを期待できる、いうことになります。
ですので、本当にここは繰り返し繰り返しになりますが、とにかく自分の仕事を細かく書いていく。自分メイドの日報、時間まで詳しく書いた日記、そういったものをできる限り詳しく残すということを考えていただければというふうに思います。
退職後の証拠の探し方
えーさて、今まではまだ仕事を辞めていない場合、まだ職場にいて仕事をしている場合の証拠の残し方についてお話をしてきましたが、ここからはもう仕事やめちゃったよという場合、もう仕事やめちゃったんだけど、今言ったみたいなメモを残してなかったよという場合に、それで残業代請求できなくなっちゃうのかっていうお話をします。
で、結論先取りというかさっきもした話でお話をしますと、そうそう簡単に諦める必要はないです。あの、相談を受けた時点で、さっきもお話しましたが、「証拠本当にないな」と、「どうしよう」というふうに、これは私の方が思うような事案で、でも色々と工夫してね、していって残業が幾分か認められたっていう経験はいくつもありますので。
退職後の証拠探し-一番の注意点
さっきもお話をしましたけれども、働くっていうのは世界と関係するっていうことですので、あの世界のあちこちを探せば自分が働いた痕跡というものは残っているはずです。それを拾い上げることができればチャンスはありますので、ここではその痕跡の拾い上げ方っていうものをお話ししますが、1番の注意点です。1番の注意点をお話ししますが、1番の注意点は、この動画作っといてなんなんですが、「証拠どうしよう、どこで探そう」っていうふうに悩んでる間に、悩む前に弁護士のところに相談に行ってくださいということなんです。
あの、今日お話しするのは弁護士のところに行ったら、多分ご自身の状況を踏まえて色々アドバイスされるところを薄く浅く話しますよっていう程度のものです。今日お話するところに従って証拠探ししてから弁護士のところに行くっていうのはお勧めしません。なんでかと言うと、まず1つはその間に残業代請求権が時効にかかっちゃう可能性があるからですね。それからもう1つの理由として、時間が経つほどに証拠そのものがなくなっていく可能性があるわけです。
今ならまだこの証拠が、例えばタイムカードなりといったものが会社にあるいう状況で、だったら早く会社に行ってそのタイムカードを取得しましょうよいうことを考えなきゃいけない。だけどそこでまごまごしている間に、それが廃棄されちゃうっていうことがあるわけです。で、そういうことがありうるんで、この「やめちゃって証拠が手元にないんだよ」っていう時は、とにかく早く手をつけていかないといけない。
なので、今日お話しすることですね、この後お話しすることは、弁護士のところに行くとこういった話されるんだろうなとか、あ、なるほど証拠がなくても諦める必要がないっていうのはこういうことなんだなと自信を持つ、自分を安心させる程度のきっかけにしてもらえればよくて、あの、その程度のものだと思ってください。とにかく早く弁護士のところに相談に行ってくださいということで、よろしくお願いをいたします。
自分で集められる証拠
まあ、そういったところもあって、あと最後まで駆け足でお話をしますけれども、まずですね、自分で証拠を探すという方法についてです。あの、会社に感づかれないうちにね、こういったところを探すと証拠を見つけることができるかもっていうところをお話ししますけれども、例えば仕事で手帳を使っている人だったらまずその手帳を見る。あの、スマホのカレンダーでもいいですけれども、断片的に手帳に時間が書いてあることがありますよね。今日は何時までとかね。
あるいは仕事によっては、この仕事の時は7時20分までに現地っていうことになってる、例えば「A社取引」って書いてあって、このA社の時は担当の人がやかましくって、大体30分前には行かなきゃいけないっていうふうになってたなとかね、そういうような感じで何時から仕事していたのかっていうのを復元できることがあります。
あとは、家族とLINEをしてたりするでしょ。家を出る時に家に家族がいるわけですので、まあ家を出る時はなかなかLINEしないかもしれませんが、例えば帰る時です。帰る時にLINEで「今から会社出ます」みたいなことを送る、「今から帰ります」みたいなことを送る、そういう人は結構多いんじゃないかと思いますね。あるいは朝がすごく早いことがあるとね、僕なんかも仕事の都合で朝早く家を出なきゃいけない時なんかね、妻がまだ起きてないうちに家を出なきゃいけないなんていう時は、家を出るギリギリのところでLINEで妻に「犬の散歩はしてあります」とか送ったりね、そういうことをしたりしますけど、あの、そういうやり取りから家を出た時間、家を出た時間を復元して、で、会社までの移動時間を足して出勤時間を復元する。こういったことができる可能性もあります。
それから手元に仕事の書類が残っているような場合、持ち帰りの仕事があったりして、メールのやり取りをプリントしたものなんか残っている。その仕事上、なんというか、許されてというかね、仕事上の必要があってその役職についていた時の権限に基づいて持って帰ってきている資料があって、そういったものの中の時間の記録、メールの例えば送信時間の表示からその時間に仕事してたんだということは最低分かる。そこから出退勤時間を割り出すというようなことができることもあります。
この他に、Googleマップのタイムラインとかね、それからあとはスイカ、トイカ、マナカなんかの利用履歴とか、その他諸々いろんな証拠活用して時間を復元していくというような事例があります。あの、最初にお話をしたように、どんなものでも、それを裁判所がそれを見て納得してくれる可能性のあるものは証拠になり得ますので、諦めないで頑張りましょうっていうことです。
会社に提供を求める証拠
で、それから会社で証拠を探すというね、いよいよ会社を相手取って正面から証拠を探す、そういうこともこの際ありえます。会社にはね、自分が働いていた時の記録ってのがごっそり残ってるわけですから、例えばタイムカード、業務日報、運転日報、タコグラフのチャート紙、デジタルタコグラフの記録だとか、出退勤の管理簿だとか、会社の警備記録だとか、それから最近だと車内SNSの履歴だとか、あるいは提出した資料のカバーレター、電話の通話記録だとか、業務上作成した書類のタイムスタンプだとか、パソコンのログオンとログオフの履歴だとか、まあまあその他もろもろ、こういった記録がごっそり残ってますので、会社に対して正面切ってこの資料を提供してくださいというふうに申し入れる、あるいは裁判を起こした後に裁判所を通じて裁判所から提出するように命令をしてもらう、そういったことも考えられます。
え、1つだけ注意を要するのが、あの、会社に資料を出してくださいって言うと、会社の側でね、ま、すっと出してくれればいいんですけど、証拠隠しとか証拠の改ざんをされる可能性がある、そういうふうに考えられる場合っていうのはあるわけですね。これは一般論としてね。「いや、実は記録捨てちゃったんですよ」というふうに言われたり、「いや、きちんとパソコンに残してたんですけど最近停電でね、パソコンのデータ吹っ飛んじゃったんですよ」というふうに言われたり、書き換えられたりする、そういう危険というのは、これは一般論として常にあります。
そうすると、やっぱりそういうことはされたくないわけですよね。ですので、自分の場合、あるいはこの会社の場合に証拠隠し、証拠の改ざんというものがされかねないなと、そのリスクは結構高いなというふうに思われる場合には、裁判所を通じていきなり会社に行ってね、証拠になるものを確認してくる。証拠保全と言うんですが、そういう手続きを取っておいた方がいいと考えられる場合もあります。
え、まあただ、まあ証拠保全という手続きまで行くと、これは弁護士入れずにやるっていうのはちょっと難しいと思いますので、ここではそういった手続きがあるくらいのことを頭に置いておいていただいて、「いや僕の場合危ないな」と、「証拠保全やっといた方が良くないかな」というふうに思ったら、担当の弁護士とよく相談してくださいということで、よろしくお願いをいたします。
ということで、ここまでお付き合いをいただいた方、ありがとうございます。今日のお話はここまでです。
残業代請求は初回相談無料です
え、最後に宣伝です。私は弁護士の仲松大樹と言います。名古屋にある事務所で修行をした後、岐阜県瑞穂市に「みずほのまち法律事務所」という事務所を開設して仕事をしています。事務所は現在、私の父と私の2名でご相談をお聞きしています。オンライン相談も実施中です。え、弁護士にご相談をという話をあちこちにしましたけれども、私の事務所では残業代請求に関するものについては初回相談は無料、ケースによっては2回目からも無料というふうでお話をお伺いしています。実際に残業代を請求するという段階では着手金無料プランというのもご用意していますので、「自分、残業代どうなのかな」というふうに思ったら、ぜひお気軽にお問い合わせをください。
え、それでは今日はこんなところで失礼をいたします。ありがとうございました。