「休憩がとれていないのに、給料を引かれる」というお悩みをよくお聞きします。
これについて、2021年11月15日にYoutubeでお話をしていますので、その動画をご紹介します。
また、「動画を見るより、文字で読むほうが早くて楽」という方のために、全文の書き起こしを掲載します。
このようなお悩みを抱えている方の参考になれば幸いです。
目次
「休憩がとれていないのに、給料を引かれる」というご相談
弁護士の仲松大樹です。
こんなご相談を例に考えてみましょう。
介護施設で働いています。
勤務時間はシフトで決まり、早番と日勤遅番と夜勤があるのですが、夜勤はいつも一人夜勤です。
夜勤シフトには2時間の休憩・仮眠時間があることになっているのですが、しょっちゅう利用者さんのナースコールがあり、対応しなければならないので、とても仮眠を取ることはできません。
せめて体を休めたいと思っても、利用者さん対応に忙しくて水分を取るのがやっとという時もあります。
しかし、夜勤シフトに入った時には休憩・仮眠時間を休んだことにされています。つまり、2時間分の給料がついていません。
これって違法ではないのでしょうか?
こういった事例――、
つまり、勤務時間中に休憩時間とか仮眠時間とか名目上は休憩であるという風に表示されている時間がある。その時間については給料を払われていない。なんだけれども、その時間には電話が鳴ったりお客さんが飛び込みで入ってきたり、仕事が何か出てくるということですよね、実際には休憩を取っているというわけにいかない。
多くの方が「休憩がとれていない」ことで悩まれています
こういうお悩み、こういう事例というのは結構あるんじゃないかというふうに思います。
私の経験ですけれども、このようなご相談というのは、このことだけでご相談にいらっしゃる方というのは、実はあんまりいないんですね。
取り扱いは多いんです。休憩時間の労働時間制を争う例というのは非常にたくさんあるんですけれども、これだけでご相談にみえるというよりは、非常に長時間労働で残業がたくさんある。にも関らず残業代が払われていないいうようなご相談で、その中で、「じゃあ日中の休憩時間というのはどうなんですか?」、「休憩は取れてますか?」というお話を聞くと、「いや、それは取れてなくて」というようなことをおっしゃって、「あ、それはじゃあそれも問題ですね」ということがそこでわかると。そういうようなことが実は多いんですね。
それから、私自身の友人だとか知人と話をしている中で、職場の愚痴のようなものを聞くことがあります。で、「休憩時間に色々対応しなきゃいけなくて」と、「休憩全然取れないんだよね」という話を聞いたりして、「それでちゃんと給料出てるの?」というふうに聞くと、「いや、それは休憩時間だから出てないんだけど」といふうに聞いたりもする。
案外、この手の悩みということは、こういうことに悩んでいる方という方は多いのではないかと。悩みながら、しかし弁護士に相談するまでの問題意識というものは感じていなくて、我慢されている方というのがけっこういらっしゃるのではないかと思いまして、このご相談をまずyoutubeで取り上げてみることにしました。
休憩をとらせないことは違法です
要点をフリップでだします。
介護施設の1人夜勤ということですね。2時間の休憩・仮眠時間という、名目上の休憩時間がとられている。その休憩時間2時間分の賃金というのは払われていないない。だけれども、ナースコールが鳴ると対応しなければならなくて、実際には休憩なんかほとんど取れない、ということです。
これが違法ではないかということなんですが、結論としては違法です。明らかにおかしい。というふうに私は考えます。
大きく言うと、2つの点でおかしい点があります。
実質的に休憩時間がとれていない。こういう問題がまず一つですね。それから、そうであるにも関わらず、その時間について賃金、給料が払われていないという問題。どちらも違法です。
なんで違法なのかということは、少し後、動画の後半でご説明をします。さしあたり、この違法な働き方についてどう対応するのか、何ができるのかというところをお話ししておきましょう。
これは、これまでの働き方の清算――過去のことですね、過去の清算――と、これからの働き方の確保――未来の働き方の確保――という、2つの観点で整理をしていくのが適当ではないかと思います。
これまでの働き方の清算というところについては、これまで休憩・仮眠時間に働いた分の賃金を、ちゃんと支払わせるということを目指すのが適当であろうと思いますね。
これからの働き方のこと―未来のこと――については、実質的に仮眠時間や休憩時間を取れるような働き方、これを目指していくことが必要ではないかと思います。
状況を改善するための3つの方法
これをどうやって実現するのかということです。上司や会社に言い――そのようにしてくださいという風に言って――解決ができるということであれば、これはもちろん一番いいんですけれども、実際にはなかなか難しいところだろうと思いますので、もう少し強度のあるところをご紹介します。
まずは労働基準監督署に相談をするということですね。労働基準監督署から会社に指導なりしてもらうということを目指すことです。
それから労働組合に加入して、団体交渉する。労働組合と会社との話し合いによって、過去の清算やこれからの働き方の確保を考えていく。私としてはこの2番目の方法がまずはおすすめです。
3番目の方法として、裁判と。法的手続きを取るということで、特にこの3番目については弁護士がお力になれることも多いのではないかというふうに思います。
それぞれやりやすさというかハードルが違いますので、この辺り、どういった違いがあるのか。労働問題の解決のためにどういった手段があって、それぞれどんなメリットデメリット、ハードルの高さがあるのかということについては、またちょっと――これは長くなりますので――別の動画を準備してご紹介をしたいと思います。
「休憩付与義務違反」について
もどって、先ほどの働き方についてですね。なぜおかしいのかと、なぜ違法だと考えるのかというところの説明を致します。
休憩時間とは何なのかというところですが、労働基準法という法律があります。その34条ですね、第1項。「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」。これ休憩付与義務というふうに言われますけれどもこういう規定がまずあります。
それから2項をちょっととばしまして、3項で、「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。」。休憩自由利用の原則というふうに言いますけれども、この3項がまずは重要ですね。
労働基準法上、労働法上の休憩時間というのは、労働者が自由に利用できる時間であるということなんですね。
休憩時間とは労働者が自由に利用できる時間のことであると。逆に言うと、自由に利用できない時間、つまり、時間中はここで待機している―これがあったらあれをしろ、あれがあったらこれをしろ、そういった仕事が義務付けられている場合、その時間は休憩時間とは呼べません。先ほど見た労働基準法34条1項で与えなければならないというふうにされている休憩時間というのは、この自由に利用できる時間のことです。
細かく言うと、その休憩時間、その時間中に義務付けられている仕事、その義務づけの程度というのは問題になりうるんですが、さしあたりはこのように考えておいていただければ大丈夫です。
ですので、先ほどのご相談の例ですね。介護施設で利用者さんからナースコールが、それも頻繁にあるわけですよ。1人夜勤で他に対応できる人もいない。だからナースコールがあったら対応せざるを得ない。まさかほとって寝ているわけにはいかないし、ゆっくりと本を読んだり、何かご飯を食べたりしているようなことも実際にはできない。そういう場合には、労働者が自由にできる時間とは言えないので、労働基準法に定められている休憩時間を与えたということにはならないわけです。ですので、先ほどの労働基準法34条1項の休憩付与義務違反という点で違法であるということになります。
この休憩付与義務違反には罰則があります。労働基準法119条で6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金ということが定められている。れっきとした犯罪になります。ですので、まずは労働基準監督署に相談をして是正を求めていくというのが適当ではないかと思いますね。
“休憩できなかった休憩時間”には、給料が発生します
で、じゃあそれが違法であるというのは分かったとして。
実際そういった仕事の義務付けがされていた時間が休憩時間ではないとすると、何になるのかというと、これは労働時間になります。
注意していただきたいのが、先ほどの例でいうと、実際に対応した時間――ナースコールが鳴って実際に出動した時間――が2時間のうち30分であったとして、その30分が労働時間になるというわけではないんですよ。
2時間全部が労働時間になります。
これはなぜかというと、自由に利用できる時間だったかどうかというところを見るからですね。
2時間について、実際に出動したのが30分であったとしても、その他の1時間30分もナースコールがなれば利用者対応しなければならない、出動しなければならないという意味で、そこに拘束をされていて自由に使うことはできなかったわけですので、それは休憩時間ではなくて労働時間になるということになります。
労働時間であるので賃金を払わなきゃいけない。ちゃんと2時間分の給料がもらえるということになります。
給料を払ってもらわなければならない理由
なんでそんなことになるのか?という、もう少し遡ったところでめんどくさい話をしようと思います。
誤解を恐れずに言うと、雇われて働くというのは自分の人生を“切り売り”するということなんですよね。
つまり、時給いくら、日給いくら、月給いくらで雇われるというのは、そういうお金をもらう代わりに、あなたの言うように働きますという約束をするということです。
私のこの能力、働くかどうかを決めることができる能力を、どうやって働くことを選択するのかということを決める能力を、これをあなたに売り渡します、ま、能力を売りわたしますというか、その選択権を売り渡します。これが労働契約というものなんですね。
こういう契約だからこそ、会社に勤めていて“今日は会社に行きたくないな”というふうに思っても、有給を使わない限りは会社に行かないといけない。
会社で命令をされて、その仕事がやりたくないなというふうに思っても、命令された以上仕事である以上それはやらなければならない、ということになります。
雇われていなければ――つまり先ほど言ったような、働くことができる能力、その働くことができる能力をどういう風に使うのかということを決める選択権、その決定権というものを売り渡していなければ、――朝起きて、今日会社へ行きたくないなと、今日働きたくないなと思えば、行かなくていい。どこか図書館に行って勉強して、自分磨きをするというようなことも許されることになるわけですよ。――まあただその代わりに、給料は貰えないということになるんですけれども。
こういう、働くことができる能力、これをどうやって使うのかという決定権、自分の人生を切り売りしますというのは、実際にはかなり無理のある設定なんですよね。
本来かなり無理があるんですよ。仕事だったらどんな命令をされてもやらなきゃいけないのか?24時間365日、雇われれば、会社のために尽くさなければいけないのか?と、そんなことを認めると人間なんであっという間にすり潰されててしまうわけですよね。
だから、私たちの社会には労働法というものがあるわけです。契約をすることによって、売り買いができる範囲というものが法律によって規制をされているわけですね。
例えば労働基準法という、法律があってこの中で売り買いをしてもいい時間の制限というものがされているわけです。使用者が命令をして良い時間、労働者との間で売り買いができる時間というのは、1日8時間・週40時間までだと。そういうことが決まっている。これが労働時間であるわけです。
休憩時間というのは、労働者が使用者のもとに拘束されている時間がずーっと続くと心も体も傷めてしまう。壊れてしまうでしょ?人間らしさというものを失ってしまう可能性があるでしょ?その危険を避けるために、使用者の下での拘束というのを離れて、本来の自分自分のことを自分で決められる時間、そういった時間を作ってあげる必要がありますよ、そういう時間を作ってあげないとダメですよというふうに決まってる。これが休憩時間がある理由。
だから。だからですよ。
だから、先ほどの例で、実際には利用者対応がなかったとしても休憩・仮眠時間が、何かあったら対応しなさい、いつでも対応できるように準備しておきなさい。そのように命令されている限り、――この命令は直接のものでも、事実上の圧力であっても両方あり得ると思いますけれども――そういうふうに縛られている時間というのは、結局中身においてその2時間、自分の人生を切り売りしている。自分のことを自分で決められない時間じゃないかと。それはやっぱり労働時間だよねという話になるわけです。
だから、そのこと自体が労働基準法違反、休憩付与義務違反だということになりますし、それと同時に、“押し買い”という形で無理やり売らされたわけですから、ちゃんとその代金は払ってもらわないといけないということになるわけです。
今日の話のまとめ
少しややこしい話になってしまいましたが、今日のポイントです。
休憩時間とは労働者が自由に利用できる時間のことである――最初にお話ししたように、休憩時間が実際のところを自由に取れていない、そういう方というのは、結構いらっしゃると思うんですね。勤務時間中に、形式的に休憩時間という名前がついた時間があっても、電話対応であったり、顧客対応であったり、そういったことをしないといけない――まぁ、ちょっとね、ちょっとマシな会社では、その対応した時間は、何かノートにつけておきなさいと。で、1時間のうち30分対応した方、30分は給料出すよと、いうようなところもあるかもしれないけれども、本来は、これは、1時間全部。例えば1時間の休憩だったらですよ、1時間だったら30分しか対応していないにしても、対応したのが30分であるにしても、1時間全部給料が払われないといけないということになります。
で、こういった扱いがされている場合には、これまでの働き方の清算ですね。これまで休憩時間働いた分の賃金の支払いを受けることを目指すべきですし、これからについては、きちんと休憩が取れるような、そういう働き方を目指すべきでしょう。
そのための方法として、労働基準監督署に相談をするということであるとか、労働組合に加入して団体交渉する、あるいは裁判等の手続きをとるということも考えられます。
どういったことが今できるのかということを、ここが本当にわからないという方については、やはり弁護士に相談をしていただいて、今の状況の打開というものを図っていただくのがいいのではないかというふうに思います。
それでは、今日の動画はこんなところで終わります。これから少しずつ、こんな感じで動画を増やしていこうと思いますので、よろしければ見ていってください。
それではありがとうございました。さようなら。